花とウタ

オアシスを夢想

あなたと生きましょう

「シエルって」
買い物終わり、紙袋に詰めた野菜を取りだしていてふと思い出したように。そんな感じを装いながら、同じように紙袋から果物を取り出しているシエルに向けてぽつんと呟く。
「ほんとに私のこと好き?」
「えっ?」
思わずシエルの手からリンゴが落ちたのを横目で確認しながら、笑みをかみ殺して続ける。
「だってね、好きって言ってくれないし、愛してるももちろんだし、キスだって、」
「わー! わ、わかっ、わかったから!」
落ちたリンゴもそのままにバタバタと手を振るシエルがかわいい。
にやつきたいのを押し殺して、なんでもないふうを装って彼が動くのを待つ。野菜は取り出し終えて、保存場所ごとにバスケットに分けて、布をかぶせる。その間のシエルのすることと言ったら! 顔を真っ赤にさせて、あーでもないこーでもないと言い訳を並べて、でも結局好きだなんて言ってくれやしない。かわいいけど、求めてるのはそうじゃない。
「ちが、違うんだソレイユ、そういう表現の仕方じゃなくってね、」
「……シエル、うるさいです」
「はい……」
怒ったふりをしてシエルの顔を覗き込む。ちょっとあとずさったシエルの足にリンゴが当たって、ごろんと転がっていく。それにさえ気づいていない様子でシエルは汗だらだらで私を見ている。みどりいろの目がとても綺麗。
「キスをひとつしてくれたら、良いの」
「……っ、あの、この空気でですか……」
「この空気だからです」
にっ、と笑ってみせるとシエルは目を四方八方にぐるぐる回転させながらあーだうーだ唸った。このまま終われば意気地なし、と言って責めるところだけど彼はそうじゃない。ちょっと待つと意を決した彼の手がすっと私の頬のあたりに伸ばされた。輪郭をなぞるように、手のひら全体で形を確かめるようにやんわりと撫でられ、彼の目が私の目をとらえる。目を細めて合図をすれば、あとは瞳を閉じて彼のキスを受け入れるだけ。唇に唇が押し当てられる。
顔を離したシエルは一瞬だけリンゴみたいに真っ赤になった顔を私に見せたあと、ぎゅっと抱き着いて肩に顔をうずめた。力いっぱい抱きしめられて痛いくらいなのにシエルはそこまで考えていられないんだろう。ぼそ、とシエルが呟く。
「……あの、ちゃんと、すごく僕はソレイユのことが好き、なので」
「うん」
とんとんと背中を撫でてあげるとシエルの腕からも少し力が抜ける。
「今後ともこういうことを強要するのはご勘弁ください」
「へたれだねえ。でも私はお買い物の荷物持ってくれたり、わざと人ごみ側を率先して歩いてくれたり、ちょっと手を繋いでみようとして出来なくてひっこめたりするシエルがだいすきだよ」
「……ソレイユ、ちょっと、いじわるが過ぎませんか」
「ごめんね」
背中から今度は頭をぽんぽんと撫でてあげる。でもキスがほしかったのは本当。一緒にいるだけも、おしゃべりするだけも、シエルだからこそ嬉しいものだけど、もっとシエルに大事にされたい。
だんだん落ち着いてきたシエルが顔を上げたのでずっと我慢していた分精いっぱい笑いかける。
「私、シエルがキスする前に撫でてくれるのだいすきなの」
ほんのちょっとの背伸びをしてキスをする。
ネタ元:http://shindanmaker.com/375517
2014/04/20
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