花とウタ

もしもしそちらはお元気ですか？　もしもしこちらはお元気ですが。それは良かった訃報があります、あなたが今日死にました。


頭の中だけでやりとりされる会話は、やっぱり、私の妄想なのかもしれない。
昨日まで確かに隣にいたはずの片割れは私だけを残して殺されてしまった。見るも無惨、とかじゃなく、ただ存在が殺されてしまったから今私の隣にはなにもない。あの子の声はどんなだったんだろう。私の声はあの子にどう聞こえただろう。私の歌うソプラノアリアが無意味に波打つ。
頭の中であの子は私に話しかけてくれるけれど、これは妄想なのだから私は彼を突き放さなければならない。


きらいだったからすっきりした。


きっと妄想だから、彼に私がうずくまったのは見えないはず。


私、ずっと一人が良かったの。そうかな、少し落ち込んでる？　いいえうれしいんです。そう言うならそれで良いけど。


言うと思った馬鹿言わないで、そうやって笑わないで、私を置いていったくせに。
…違う、彼は私に優しくて当たり前だ。私の頭の中でしか生きていないのだから。ウェーブにならない虚構のカノンがその証明で、ああ今、私はどのトラックに？　あの子の声はもうテノール？　それともまだアルト？　聞こえる声は、


「私を一人にしないでよ」
「しないよ、俺はリンの弟なんだから」









波形はひとつ、振幅二倍のソプラノデュエット
(頭のおかしいさみしがり)