花とウタ

オアシスを夢想

終末論

ばーん。リンはそう言って、ピストルを模した手を撃ち鳴らした。屋上の柵に寄り掛かり、けだるげに下を向いている。下にきらいなひとでもいたのと尋ねれば、リンはそうかもねと実の無い返事だけをして手を下げた。


「レンは」
「うん」


ぼそりと呼び掛けられ、反射的に返事しながら、また始まったと思った。


「満足してる?」


レンは満足してる? つまりリンは満足ではないらしい。ばーん、またひとりリンのピストルに撃たれた。
真似して手でピストルの形を作る。けれど指はただの指だし、この手で誰かを撃てるわけはない。絞めるならまだしも。
返事は、とリンがつぶやいたのが判った。もう少し時間が欲しかった。くさい台詞を吐けば、リンはそういうの嫌いだと言って俺を責め、そして屋上の真ん中に座る俺に振り返る。


「レン、」
「リンが満足すれば、」


一呼吸置く。俺は完成するよと言うと、リンは興味なさげに俺を一瞥し、ピストルを俺に向ける。ばーん。


「レンのそういうとこきらい」


俺がリンの頭の中でリンに殺された。屋上に、下で騒ぐ人の声が響く。リンはこの声の中の誰を殺そうとしたのだろう、何人いてそのうち何人を、そんなおもちゃにも及ばないピストルで殺そうとしたのだろう。

ばーん。今日何度目かの台詞はやたら軽く、手を伴っていない。ごめん、なんでもないのよと手を振って笑ってみせたリンの頭の中では今頃、この世界には誰もいない。












終末論
(誰もいなくならない、つまり、完成しない、ということは、)
2010/12/19
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