花とウタ

オアシスを夢想

you are my cup of tea

とん、と軽く押すと軽やかな音を上げて窓が開いた。春が訪れたばかりの外の世界はきらめく緑色の草原に奥の桜舞う風景が重なって眩しい。風があたたかく、ゆるやかに踊る。朝露に濡れた草木と匂いに花に誘われた虫の音色。見上げると燦々と光降らす太陽があり、手をかざし目を細めた。今日も天気が良い。シーツを洗って洗濯物を干して、お昼はサンドイッチにして外で食べよう。——そのために、まずは、朝ごはん。
振り返って一番に目に入った彼女の絵の埃をさっと払い、立て掛け直す。壁にかかっているものにも目を通してあとでタオルを持って来よう、と思う。さあお茶を淹れて、パンを食べて、一息つこう。
「ソレイユ、待っててね」
君の見守るもとで、暖かい歌を届けてあげるから。ゆっくり抽出した紅茶を、ふたつ並べたマグカップに移し、そのひとつを窓際にやる。
『熱いから冷ましてから、ね』
やわらかに微笑んだ彼女のことを思い出す。手元のマグに息を吹きかけて冷めるのを待つ間、もう一度空を見上げる。大丈夫だよ、ソレイユ。ちゃんとやれる。ちゃんと君のいないところでも、君が見ていてくれるならば。
「あつっ」
ずっ、と紅茶をすするがまだ冷まし足りなかったようだ。くすりとどこかで彼女が笑ったような気がして顔を上げるが、草原に風が吹き抜けるだけ。
2014/06/03
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