花とウタ

オアシスを夢想

笑ってないでどうにかしてよ

「メイコさんのいろんなとこが好きだよ」


すぐに判る嘘を吐くから、私はこいつが好きなのだと思う。そんなことをふうんという相槌に込めて、視線を逸らした。机に乗った飲みかけのコーヒーとミルクティー、その足元の絨毯の白、ペディキュアの赤がひどく映えて目に余る。
そろそろ塗り直すべきかしらと思っていると、ミクオが私を覗き込んできた。会話を続けたいらしい。聞いてるの、と少し不機嫌な顔を向ける。


「いろんなとこが好きなんだよ、たとえばね」
「あら、その先の台詞は野暮だわ」
「そう? いっぱい考えたのに」
「蛇足は嘘だって判っちゃうからきらいなの」


なあんだ、ばれてたの。ミクオは笑って机の上のミルクティーを手に取った。冷め切っていたそれを飲み下して、まずい、と一言こぼす。そして傍のごみ箱を覗いて、納得したようだった。確かスティックシュガーの袋が三つと、コーヒーフレッシュのカップが二つ入っているはず。
私もコーヒーに手を伸ばした。マグカップの白にマニキュアの赤がまた目に余る。塗り直すくらいならいっそ剥がしてしまおうかしら。冷えた陶器が指先から私を侵食していく。

ばた、とマグカップをわざと取り落とす。じわり広がるブラックの茶色。


「楽しい嘘が欲しいわ」
「さっき言ったじゃない」
「あれは事実でしょう」
「なあんだ、ばれてたの」












笑ってないでどうにかしてよ
(ほら、あなたのコーヒーじゃない)
2010/11/06
inserted by FC2 system