花とウタ

オアシスを夢想

familial

ボクとお兄の間にはなんもない。妹がつまらなそうに言い切った。


「あったとしても名前くらい? でもそういうのって大したことじゃないよね。実際ボクの名前はGUMIであってめぐぽじゃないんだし。第一ボクが求めてるのはそんなことじゃなくってね、」
「…待って、何の話」


ずいぶん頭が痛い話だったので一旦話を切らせてもらう。彼女はすぐ自己完結してしまうから、適宜整理していかないと追いつけなくなるのがつらい。
しかし口を挟んだのがいけなかったらしく、不機嫌そうに眉間の皺が深くなる。


「さっき言ったよね、ボクとお兄の間にはなんもないって」
「それは聞いた、もう少し詳しく」
「お兄はすぐそれ言う」


おまえの話が判らないからだろう。反論を飲み込んで、そうだねとかええとと繰り返す彼女から説明されるのを待つ。予定外のことに関して言葉を選ぶのに時間がかかってしまうのも彼女だから、出来るだけ焦らせないようにしようと思うのだけど、いつもこういうときにどうして良いのか判らなくなる。
そういえば彼女はこの前、俺の髪を羨ましがっていた。今度結ってあげたら喜ぶだろうか。


「あのねお兄、ボクらは兄妹だけどね、なんていうかな、その、本当は、違うんじゃないかって」


口を閉じたところから見ると、もう説明は終わったらしい。少し沈黙。まだ判らないと言うとそうかなあと言う。彼女は自分の気持ちを伝えるのがとても下手だ。


「つまりね、ボクにはお兄がどう思うかが判んないんだ、それだけじゃなくって、お兄は好きだけどさ、なんでボクはお兄の妹なのかなって」


ああなんとなく判ってきた。まったく頭が痛い。


「恋人になりたいとかじゃなくってね、お兄がお兄じゃなくなったときに、ボクとお兄はどんな関係で居られるのかなってことかなあ。どう、判る?」
「判る、判った、なんとなくだけど」


つまり、今一緒に居るのがすごく辛いってことだろう。短絡的で極論ではあるけど、間違ってるわけじゃ、ない。確かに俺とおまえの間にはなにもない。おまえがそう思う限りは。
えとね、と沈黙に耐え切れなくなったらしい彼女が切り出す。


「ボクが思うことはたいがい言っちゃったので、お兄の考えが聞きたいです」
「…例えば俺が女だって例えばおまえが男だって、嫌わない、なんて確証は俺にだってない、けど、今例えばの話は関係ない、と思う」


傷つけないよう言葉を選びながら話す。細切れになってしまうのは、多分、彼女なら判ってくれるんじゃないだろうか。傲慢だろうか。
おいで、と彼女を目の前に座らせる。髪をひとつにまとめていた飾り紐を解いて、彼女の髪を触る。


「お兄、痛い」


まとめた髪はどうがんばっても長さが足りずに細くはみ出した。不屈そうな顔を彼女は俺に向ける。
きっと似たような顔を俺は彼女に向けているのだろう。例えばなんて関係なく、きらいあっていないはずなのに。












familial fool
(馬鹿め)
2010/11/08
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