花とウタ

オアシスを夢想

死ねば地獄か大地獄、奈落に果てはあらしゃんせ

「このまま私が死んでしまったら、私を殺したのは私かしらあなたかしら」


メイコちゃんは笑って言った。自分の手を重ねた僕の手を自分の首に押し当てながら。親指がかすかにメイコちゃんの喉に食い込む。このまま殺しちゃうのはいやだなあとぼんやり思っていると、聴いてるの、とメイコちゃんの声がした。


「聞いてるよ」


実のない返事をすればメイコちゃんは怒る。聴いてないでしょ。ぐ、と押し込められる親指がメイコちゃんを喋れなくしてしまう。ああもうメイコちゃんと歌えないのかな、メイコちゃんはもう歌いたくないのかな。薄く筋を立てる腕が、震え出す。それを止めることもしないで、僕はメイコちゃんをずるいなと思ってしまう。
そんなふうに自分を殺したって、僕はメイコちゃんを追いかけたりしないのに。


「メイコちゃん」

「メイコちゃん、ねえ、聴いて」


僕の手を押さえつけていたメイコちゃんの手が、力をなくしていく。声にならない声が、鮮やかな口の端から零れていく。かわいそうに、と思った。自殺は怖いんでしょ、僕が殺せば安心なんでしょ。僕まで少し息が上がってきた。カイト、とくちびるが動いた気がしたけれど、僕はそれを見なかったことにして、メイコちゃんの目を見る。そして僕も笑って言う。


「メイコちゃんが死んじゃったらそのカラダ抱きしめて泣いてあげる」


メイコちゃんは今微笑んだのかな、どうなんだろう。でもまだ続きがあるから、聴いてもらわなきゃいけない。ねえ、と呼びかけて手から力を抜く。メイコちゃんの指はまだ僕の手に掛かったままだ。

ねえ、メイコちゃん。だから僕は心中なんてしないよ、きもちわるい。








死ねば地獄か大地獄、奈落に果てはあらしゃんせ
(僕にメイコちゃんは殺せない、ああでも、そのまた逆も然り?)
2010/05/12
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