花とウタ

オアシスを夢想

アイハブノーイヤー

違う。そう叫べばメイコ姉は笑った。
メイコ姉の体に馬乗りになりながら睨みつける。俺の影にくすむ青白い肌がまた俺を睨みかえした。でもメイコ姉は笑っている。ええそうね、違うわ、あなたの何もかもが。そんなこと知ってるよと言おうとして、頭を横切る兄の顔に邪魔された。
息を飲み込んだ口に、メイコ姉の指が触れる。


「アナタ、知ってる?」


何を。何か判らないけど知りたくもないんだけど。
指が邪魔で言葉にならない。


「私、アナタのことを抱きしめてあげたいくらい愛してるけどあのひとのことは殺してやりたいくらい愛してるの」


どう答えれば良いのか判らなくて、そう、と指を押しのけて答えたらそうよと言われた。あなただって、同じでしょう? 微笑みは赤く色づいて僕を誘う。するりと首に腕が伸び、吐息がかかるところまで抱き寄せて、ねえレン、と彼女は言う。わざと舌っ足らずにした声で、あどけなくいやらしく微笑んで僕を呼ぶ。なあにメイコちゃん。わざと優しげにした声で僕は彼女の誘いに乗せられていく。ああ、リンもこんな気持ちだったのかな。なら、ねえ、いっそのこと、殺してよ。
鼻頭がぶつかったところで、どちらともなく笑ってしまった。ただの真似事、愛するひとに取り残された俺とメイコ姉の、ただのふたりあそびだ。しょうがない、んだ。


「可笑しいわ」
「違うよ、可愛そうだよ」
「そうかしら?」
「うん、絶対に可愛そう」


笑いすぎて涙まで出てきた。俺たちは可笑しくて可愛そう。つまりは、そう、情けない。
メイコ姉がカイト兄をちゃんと捕まえとかないからだよ。そう言って抱きしめてあげるとメイコ姉は俺の頭をぽすぽすと叩いて、そうね、と言った。そうね、そうよね、私たちがばかだったんだわ。メイコ姉は重たく呟き、俺の影に爪を立てる。

ねえレン。舌っ足らずの声がまた僕を誘う。


「ねえレン、愛してるわ」
「…僕もだよ、メイコちゃん」








嘯くための「愛してる」
(狂ってるなんて言わないで、俺は君じゃない)
2010/05/08
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